千葉にいる母にとって、東京で暮らす僕がさらに反対側の静岡県に引っ越すことを聞き、急に寂しさを感じているという話はここに書いた。
その後も母が気にかかり、電話をしてみた。
僕「お母さん、熱海に引っ越す話だけどね…今度引っ越す家は少し広いから、お母さんたちがいつでも泊まっていけるような部屋をちゃんと用意するからね…
いつでも来たい時に来て、いたいだけいればいいからね」
母「私が寂しいなんて言うから、あなたに気を遣わせちゃったわね…大丈夫よ。年をとると寂しくなるのよ。おばあちゃんもよく私に言ってたんだけど、それと同じね。
あなたは私たちのことなんか気にせずに、好きなところに住みなさいね」
中学生の時以来、母は父と別居をして、僕は母と、兄は父と暮らしていた。
それからずっと母は僕とふたりだけの生活を続けて、中学、高校、そして僕が大学を出て就職してもしばらく僕と母はふたりだけで暮らしていたのだ。
その僕が29歳の時に、はじめて年上の恋人が出来て家を出ることになった時にも、母は同じように寂しさを口にした。
母は働きながら僕を育てることで、独り身の寂しさを紛らわし、日々過ごしていたのだろう。そんな僕が急に母のもとを離れることを知り、言いようのない寂しさを感じたのだと思う。
でも今思えば、それが母にとっては転機となり、やがて母は現在の夫と知り合い、再婚することになったのだった。
千葉と静岡でたとえ距離は離れていても、いつも気にかけていれば大丈夫だろう。母が健康な今しか、こんなことは出来ないかもしれないと思えたのだった。