キッチンで料理をしていたら、Kが来て言うのだ。
「ただしくん、背中のシミ、皮膚癌かもしれないからお医者さんに診てもらって」
背中にシミが出てきたのは知っているけど、自分では背中は見れないので気にもとめていなかった。
皮膚癌なんて、ヒュー・ジャックマンじゃあるまいし…とも思ったが、念のため皮膚科に行ってみた。
先生「これは、加齢によるシミですね。どれも皮膚癌の心配はありません」
「盛り上がってきて気になるようなら、液体窒素で除去できますよ」
生きていれば、シミも増える。
心の中では、「また、加齢かよ…」と思ったけど、僕が他の人よりも、特に沢山紫外線に当たったとも思えない。普通の子どもと同じように海やプールで泳いでいたくらいだ。
ただ、もともと肌が白く、紫外線に弱いというのはあるのかもしれない。
僕がまだ小学生で、父と一緒に住んでいた頃、父の背中にはシミがあった。
ある日、お風呂から出てきた父が、背中にシミが出てきたと、僕に、ちょっと寂しそうに言った日があったのだ。
僕はその頃の父よりも、ずっと年をとっているのだけれども、あの時の父のせつなさが今、わかる。
父が生きていた頃は、そんなことさえ思い出さなかったものだが、亡くなって10年以上経って、こんな風にふとした時に父のことを思い出す。
父は、僕の背中にいたのだ。