ひろ家

一年に一回くらいは、ふぐを食べてもいいかなと思い、久しぶりにふぐを食べるために『ひろ家』という西中洲にあるお店を予約した。
こじんまりとした店内は、カウンターが6人くらい座れて、後ろのテーブルは、12人くらい座れるだろうか。
今日は、後ろは会社の忘年会。カウンターの隣は高校時代の同級生で、今は73歳くらいのお爺さん5人が、楽しそうに宴会をしていた。
テッサも、唐揚げも、ふぐちりも、天然のふぐをお願いしたのだけど味が濃く、白子も久しぶりに濃厚で美味だった。
ふぐを食べる時にいつも思い出すのは、ふぐが大好きだった父のこと。美味しいふぐを食べると、亡くなった父に食べさせてあげたいと思う。
大笑いしてしまったのは、隣のお爺さんが楽しかったから。大声で話していたのだ。
「前立腺癌の手術の後のお祝いなんです」
「お前、もうセックス出来ないんじゃねえか?」
「セックスしたいねえ…もっともっと」
「牡蠣フライには、タルタルソースじゃなくて、ポン酢よこしてくれ!タルタルソースなんて、町の洋食屋さんだよ」
「このうどん、稲庭うどんって書いてあるけど、うどんって言ったら温かいもんだろ?なんで冷たいうどんが出てくるんだよ!」
多分おじいさんは、福岡の柔らかいうどんしか知らないのだろう。
そんな会話を聞きながら、Kとふたり大笑いしながらふぐを食べたのだった。
ふぐって、ああ、幸せ。
⭐️ ひろ家
092-752-2266
福岡県福岡市中央区西中洲12-10
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400102/40001069/

「飛行機に間に合わないかもしれない…」

新宿バスタから、リムジンバスに乗って羽田空港へは、普通45分。空いていたら30分強で行くこともある。
ただ、今まで混んでいて45分かかったこともある。それを見越して夕方にバスに乗り、45分かかったとしても、出発の45分前に着くように乗ったのだ。
高速に入るまでに渋滞で25分。トンネルに入るとどんどん雲行きが怪しくなり、少しずつしか動かなくなった。
僕「まさか、そんなにかかることはないよね…時刻表は、45分だもんね」
K「そんなに焦っても、遅くなったのは、誰のせいでもないよ。どうすることもできないよ」
僕「もしかしたら、20分前も間に合わないかも…」
K「ただしくん、もうスマホ見ないで。見ても何も変わらないよ」
僕「チケット、買い直しかな…
ふたりで7万円くらいだね…」
K「もう福岡行かなくてもいいよ。東京にいよう」
僕「えええ!やだやだ。せっかくお店も予約してあるのに…」
K「ただしくん、こんなに手に汗かいてるよ!」
羽田空港に着いた時には、出発の10分前を切っていた。なんと、予定より35分以上の遅刻。
走ってチェックインしようとすると、20分前を切った航空券は、入れませんとのこと。
リムジンバスの遅延の証明書も取らずに突っ走って来たので、もはやチケットを買いなおさないといけないと思いANAカウンターに行くと、同じバスに乗っていた人たちが僕の後に続いた。
カウンターでバスの遅延の旨を伝えると…
ANA「遅延の証明書はお持ちですか?」
僕「いや、慌てて走って来たのでもらわなかったんです…でも、この後のあの白い帽子の女性まで、みんなあのバスの乗客です」
ANA「わかりました。それでは空いている便に振り替えましょう」
僕「えええええ?
振り替えていただけるんですか?」
ANA「センターの席になりますが、後20分を切っているので急いでください」
「飛行機に乗り遅れるかもしれない」と、車の中で手に汗握る経験は、僕の人生でもこれを入れて3回しかない。
そして、もう二度とこんな経験はしたくないと、固く心に誓ったのだった。

もうすぐさようなら『外苑前日記』。

実は、このホームページを運営している会社から連絡があって、来年の1月末で、ここの会社のホームページのサービスが終了するというのだ。
これを機に、もう日記などやめてしまうか、どこかに引っ越しをしなければならず、その作業が思いのほか面倒で、そのまま放置していたら、あと1ヶ月くらいになってしまった。
年末の休みにKが大分に帰ることになったので、そこで1人の時間に出来るのではないかとぼんやりと考えている。
思えばこの『外苑前日記』をはじめてから、丸々7年が経過した。この日記を始めた頃は、Kと離れ離れに暮らしていたのだ。
確かに言えることは、7年前と比べて、今はもっと幸福であること。
今日は、いつも新しい。
年を重ねることで様々なことがあるけど、その中で気づいたことは、今日はいちばん新しく、何よりも可能性に満ちているということ。
昨日よりも新しい今日を、これからも大切に生きていきたい。

新しい大きな仕事。

営業の偉い人からスマホにメッセージが残っていた。
「来年立ち上がるプロジェクトを、クライアントの〇〇さんと〇〇さんが、君に任せたいと言ってるので、26日に行けますか?」
突然のメッセージで驚いて、取り急ぎ会って話をすることになった。
もうすぐ51歳になる僕は、そろそろ海に近いところに引っ越して、のんびりと暮らす計画を立てようと思っていたところ。
そのプロジェクトを引き受けるということは、3年くらい仕事に忙殺されそうだ。
今の僕には、のんびりしたいという思いと、もっともっといい仕事をしたいという思いが共存している。
この仕事を引き受けることになるけど、55歳や60歳になることを見据えて、今をもっともっと丁寧に生きていかなければと心を引き締めたのだった。

33年目のカーディガン。

「カーディガンの修理が出来上がりました」
洋服の修理屋さんから電話をもらって取りに行ったのは、以前にもここに載せたことのある青いカーディガン。
僕が、高校時代に好きだった洋服屋さんは、六本木にあったエミスフェールというお店と同じ系列店で青山にあったハリスというお店で、このカーディガンはハリスで買ったのだった。
このカーディガンを着て、チノパンを履いて、ブレディのバッグを持って、オールデンの靴を履いて、原宿を歩いていた時に写真を撮られて、POPEYEという雑誌に載ったこともあった。
33年経って、今でも同じ服を着て同じブランドの鞄を持って同じブランドの靴を履いているのだから、人間なんて、年月ではそう変わらないものなのだと思う。こんな風に美術学校の学生時代の頃から、鮮やかな服が好きだったのだ。
このカーディガンの両方の袖の裾がほつれて、修理屋さんに持っていって見積もりの電話があった時に、ちょっと金額に驚いたのだ。
「9000円に、消費税になります」
「えええ!そんなに高いんですか?」
「珍しい色なので、中の余っている部分から糸を引っ張り出しますので…」
「わかりました。お願いします」
1万円あれば、今やカーディガンなんてファストファッションで2つ3つ買えそうな額だけど、修理して戻って来たカーディガンを持った時に、「やっぱりこのカーディガンなんだよな…」と思った。
このカーディガンを着て、いったいどれくらい沢山の旅をしたことだろうか。
このカーディガンを着て、浪人時代の憂鬱な時を、仲間たちと過ごしたのだ。
今となってはこのカーディガンは、世界にひとつしかないものなのだ。

家で過ごす日曜日。

鴨には1.5%の塩を振り一晩冷蔵庫に。

鴨油の中で80度で1時間半。

ヒヤシンスは根本に触れる水につけダンボールに入れて外で寒さにあてる。

本当は、朝から日本橋に行って、『午前十時の映画祭』で『ウエストサイド物語』を観る予定だった。
その後、有楽町に移動してご飯を食べて、大好きなケン・ローチ監督の『家族を想うとき』を観る予定だったのだ。
でも、朝起きようとした時に、Kの様子がおかしく、朝ごはんを作ってもほとんど食べられないと言って僕の皿に固形物を戻してくる。顔色は真っ白で、具合が悪いのがわかる。
「Kちゃん、6連勤と昨日の忘年会で疲れちゃったんだよ。今日は、家でゆっくりしてようね」
「映画がもったいないから、ただしくんひとりで映画に行ってきてあげて」
「心配だから一緒にいるよ。ひとりで見ても面白くないよ」
そのままKは、ソファに倒れ込むように横になると、すやすやと眠りはじめた。
僕は、解凍して塩を振って一晩寝かせておいたシャラン鴨をコンフィにしたり、家のたまった本を選別したり、ベランダの掃除をしたり、植物を植え替えたり、ヒヤシンス の球根の水耕栽培をはじめたりしながら過ごした。
夕方になってようやく顔色も良くなってきて、食欲も出はじめてほっとしたのだけど、日曜日は家から一歩も外に出かけることはなかった。
病院の仕事は朝から晩までで、お昼ご飯を食べる時くらいしか休みもなく、6連勤ともなればかなり疲れるのだろう。
いつもの出かけてばかりの日曜日ではなく、こうして家でゆっくり一緒にいられた日曜日も、それはそれでとても充実していたと思える。

同性婚訴訟の忘年会。

『同性婚訴訟』の弁護士の方々と東京の原告で来年に向けての会議をした後に、新宿2丁目で忘年会が行われた。
この訴訟をサポートしてくださっている弁護士は、およそ55人で、そのうち20人強が東京及び近県の弁護士。
もう何度もお会いしていて、こちらもプライベートのことまで赤裸々にお話ししているので、裁判自体に関するわからないことなんかは、気軽に聞くことができるし、言いたいことも言うことが出来る関係になってきている。
実は、この裁判自体でずーっと気になっていたことがあったので、忘年会の席で直接弁護士に聞いてみた。
この『同性婚訴訟』に関して、弁護士は無償で働いてくれている。調査や書類を作るための膨大な時間や、必要な人に連絡を取り会いに行ったり、裁判に関わる拘束時間もかなりのものなのに、こんなにも沢山の弁護士が無償でやってくれているのだ。
弁護士の中には、当事者の方もいる。その当事者の方々は、きっと自分自身の問題でもあるため、やり続けられる熱い思いもあると思う。
でも、恐らく多くの弁護士の方々は、ストレートなのだ。
いったい彼らにとって、この訴訟に関わるモチベーションはいったいどうやったら持ち続けられるのだろうか?この訴訟自体をやる何か具体的なメリットがあるのだろうか?と。
すると当事者の弁護士も、「ほんとにそうですね…なんでストレートの弁護士たちがこんなに一生懸命やってくれているんですかね?」とのことだった。それに、この訴訟に関わることによるメリットなど、きっと何にもないと言うのだ。
「きっと、この不平等はもはや人権問題なのに、なんで未だに同性の結婚が出来ないのかと憤りを感じている、かなり意識の高い人たちなのかもしれませんね」とのことだった。
裁判を、5年10年と長きに渡って戦い続ける同士のような弁護士の方々に囲まれて、ありがたいなぁと感じながらの楽しい一夜だった。

僕たちの敵は、ヒヨドリ。

先日植えたプリムラのかわいい花が、植えてから2日目に会社から帰って来たら、花びらが外に飛び散っていて、ピンク色の花が根こそぎ無くなっていた。
これは、毎年のことなのだけど、僕のいない間にベランダにヒヨドリが来るようで、何故かこのプリムラを選んでことごとく食べ尽くしてしまうのだ。
朝起きてその惨状をKに見せると、病院に出勤する時間なのにKは張り切って、以前に買った風船を持ってきて膨らませて、プリムラの植っている鉢のそばにぶら下げた。
この奇妙な風船は以前にもここに書いたことがあるのだけど、害鳥除けになるのだそうだ。(本当にこれが効くのかは定かではない)
こんな風船をぶら下げている家は周りにはないからちょっと笑ってしまうけど、「ただしくんがかわいそう…」と思ったのか、一生懸命に風船を膨らませてくれたKを見ていて、とてもかわいかったというオチなのだ。

ボンバックスの挿木。

僕の家で、おそらく一番長い間家の中で育っている植物に、『ボンバックス』がある。ちょっと珍しい植物で、パキラに似ているけど葉っぱが丸くかわいいのだ。
神宮前3丁目の『FUGA』で20年くらい前に買い求めたと思うのだけど、その『ボンバックス』を、夏の間に伸びた枝を切り、挿木をしておいた。
3つ枝を切って適当に空いている土に挿しておいただけなのに、2つがきちんと根付いてくれたようだ。
冬になり寒さが気になりはじめたので、一つひとつ小さな鉢に植え替えてあげたのだ。
僕「かわいいでしょう?こんなに小さな枝から根が出たんだよ」
K「去年も別の木を挿木してたでしょう?
ただしくん、これはいったいどこに置くの?」
小さな喜びを噛み締めている僕に、Kは冷水を浴びせるのだった。

マリッジ・ストーリー

ゴールデングローブ賞に最多ノミネートされた映画『マリッジ・ストーリー』は、今年観た映画の中でも最も好きな映画のひとつだった。
『クレイマー・クレイマー』を思わせる夫婦の離婚がテーマの作品なのだけど、2時間くらいの間、見ている方はじりじりと男と女のそれぞれの思いや言い分を聞くことになりせつなくなった。
弁護士を通して離婚協定が進んで行く様は、アメリカならではだと思う。僕だったらこんな風に法廷で争う前に、心が折れてしまうと思ってしまった。
誰かが銃で撃たれたり、自殺したり、爆発したり、宇宙人が出たり、空を飛んだりする映画ではない、どこにでもいそうな夫婦と子どもという家族に焦点をあてて、じっくりと二人の間の少しのズレを描いていく、こんな映画が僕は好きだ。
映画を見終わったあとでも思うことは、ふたりはあんな風に別れなければならなかったのだろうか?という思いだ。
全く違うふたりがつきあい始めてともに生きる道を選んだとしても、ほんの小さな違いがきっかけで、離れ離れになってしまうことがある。その違いは、お互いの努力で乗り越えられる場合もあるのだろうし、話し合いやお互いの努力では、乗り越えられない場合もあるのだろう。
その後の彼らはどうなったんだろう?と、ふと思わずにいられないような、余韻を残す美しい映画だ。
⭐️マリッジ・ストーリーhttps://www.netflix.com/jp/title/80223779