同性婚訴訟のあとに。3

会社の会議が終わって、廊下を歩いていたら60歳を越えてシニアで勤めているかつての上司が僕の名前を大声で呼んだ。
「どうかしましたか?」
「お前、この前テレビに出てたろ?偶然見かけたんだけど・・・あれ何?あのキャンペーン手伝ってるの?あの活動、まだやってたの?」
「あ、あれは・・・キャンペーンをやっているのではなくて、実は同性婚訴訟の裁判の原告なんです。」
「え?原告だったの?もう日本だってそんなの時間の問題だろ?」
「ええ・・・そう思っているのですが、アクションを起こさないと、この国には問題はないことになっていたので・・・」
「そうなんだ・・・へえ・・・がんばってな」
またしばらくしたら、総務課の課長が歩いてきて僕を呼び止めた。
「サンジャポに出てましたよ」
「へ?そうなんですか?見てないや」
「急にただしさんが映ったからびっくりしました」
会社で直接的にこの件で声をかけられたのは、このくらい。他の人は特に何も変わらず一緒に打ち合わせをしたり、普通の話をしている。
僕の場合は社内でも完全にバレているというのもあるからか、みんな僕がその手のことで何かやったとしても、特に何も思わないのだろう。
提訴した翌日は結構ドキドキしながら会社に行ったのだけど、意外とすぐにみんな他の人のことなんて忘れてしまうんだよなあ・・・と思ったのだ。
そんなことよりも、その後の日々で毎日思うことは、今回本当にやってよかったということ。
今までの人生の中で、『勇気』ということをこれほど思ったことはなかったな。

女王陛下のお気に入り

こんな格好したい。

まるで、大奥のような映画だった・・・。
『女のドロドロ』が好きな人なら、絶対に楽しめるであろう作品。主演のオリヴィア・コールマンをはじめ、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン、『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ、女優たちが見事な競演を繰り広げている。
18世紀初頭のアン女王の時代、イギリスはルイ14世のフランスと戦争の真っ只中。イギリス国内が揺れ動く時代に、全ての権限が委ねられた女王の周りで、女王の幼馴染のサラとサラの遠い親戚のアビゲイルが、女王の心を掴むために陰湿で熾烈な闘いを繰り広げる。
まず見所は、素晴らしい衣装だろう。そして、絢爛豪華な王室の内部映像。撮影はフィルムで撮ったのだろうか、ワイドなレンズも使っていて王室の世界観を映画ならではの手法で映し取っている。
アン女王役のオリヴィア・コールマンの演技のなんと見事なことか。僕が知らなかっただけなのか、こんなに凄い女優が英国にはまだ隠れていたことが驚き。
エマ・ストーンとレイチェル・ワイズが対称的であり、ある種普遍的な女性の要素を持っていてよく練られた脚本だなあと感心する。
ゲラゲラおおごえをあげて笑ってしまう映画。ぜひ、劇場で!
⭐️女王陛下のお気に入りhttp://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/sp/

同性婚訴訟のあとに。2

14日の同性婚訴訟の後、僕の家にはテレビがないのでわからないけど、メディアには、かなりの数で出ていたみたいだけど、周囲がどんな反応だったかというと、一言で言うとほとんど何も変わらなかった。
会社にいる間、誰もこの件に関して話しかけてくる人はいなかったし、プロダクションで会議の時も、特に誰も話題にしなかった。
本当にごく親しい友人からのみお祝いのメッセージが寄せられたけど、ほとんどの友人たちからは何もメッセージが来なかった。
そのかわり、地方や海外に住む友人からのメッセージがいくつか来た。
「誇りに思うよ」
「Fantastic!!! Thrilled, and so proud of you! Much love to you!」
「あなたのこと、誇りに思うわ」
「Our lesbian couple Florence and Jud, Jing-san, Cho-san, Charles want to me to send their lives and full support!!! 」
こんな有り難いメッセージに、僕たちふたりはどれほど勇気づけられたことか。
今回の訴訟は、最高裁まで行くことがわかっていて、恐らく5年以上10年とかかかるかもしれないと言われているのだけど、30人くらい一緒に戦ってくださる弁護団は、全て無償で働いてくれている。
10年という長い期間の訴訟には、僕たちの想像のつかないくらいのお金もかかってくるようで、2月14日訴訟の当日にクラウドファンディングか立ち上げられたのだけど、驚くことに、目標の500万円は、3日も経たないうちに突破した。
それだけ周囲の関心とサポートがあるということは、原告や弁護団にとっては何よりも励みになる。
このクラウドファンディングのサイトにコメント欄があって、時間のある時にそれらのコメントを一つ一つ読みながら、そのメッセージに胸が熱くなる。
写真は、そんなコメントの一つなのだけど、こんな状況の人が、この国にはきっと沢山いるのだろうと思って、うるうるとしてしまった。
僕たちは、原告13カップルだけではなくて、こんな風にコメントを寄せてくれる沢山の仲間たちと一緒に、この長い戦いをはじめたのだ。
⭐️日本で同性婚を求める訴訟を応援してください!https://readyfor.jp/projects/MFAJ

同性婚訴訟のあとに。

昨日の同性婚訴訟の後の応援パーティーの時、不意にスマホが鳴ったので、出ると母からだった。
「テレビ見てたら急にあなたが映ったから…いったい何やってるの?」
「前にバレンタインデーに同性婚訴訟を起こすって話したでしょ?」
「聞いてないわよ…あんた、そんなことでテレビに出なくてもいいでしょう?まだこれからも出るの?」
「いや、多分今日と明日くらいしかニュースや記事には出ないと思うよ」
「もっと他のことやってニュースに出ればいいのに…」
母の声には、諦めのような落胆の色が滲み出ていた。
僕は、そんな母のことを考えて、少し泣きたくなった。
きっと自分の息子のことを、人よりも劣っていると卑下しているのだろう。
この世の中に、最愛の家族に卑下されるほど、悲しいことはない。そんな息子を持った自分のことも、きっと悲しいと思っているのだろう。
僕は今日、起きた時からそんな母のことを考えていたのだけど、思い切って電話をかけてみることにした。
「お母さん。昨日は僕みたいな子どもを持って、恥ずかしいと思ってたんでしょう?」
「私はもういいのよ。あなたのことはそうなんだって受け入れてるの。でもね、あんな風にニュースに出なくてもいいと思って…」
「お母さん。よく聞いてね。いつか近い将来に、この国でも同性婚が認められる日が来るんだよ。今はね、僕は、自分のためだけに戦っているんじゃなくて、僕みたいに前に出れないものすごく沢山の人たちやこれからの若者のために戦ってるんだ」
「同性愛の子どもたちは、学校で差別されたりいじめられたりして、自傷行為や自殺する子どもが6倍も多いの。トランスに至ってはもっともっと多いんだよ。この国のこれからの若い人たちのために立ち上がったんだから、お母さんは僕のことを、誇りに思っていいんだからね」
「あら、そうなの…私にはあんまりわからないけど、あんたがそう言うんなら、わかったわ…」
僕は母と話しながら、映画の『トーチソング・トリロジー』で、アーノルドがお母さんと誇りや自尊心をかけて喧嘩をするシーンを思い出していた。
そして、『ミルク』や『against 8』など、数々の映画を思い出して、彼らも僕たちを応援してくれているに違いないと、自分に言い聞かせたのだ。

同性婚訴訟。

朝は4時には1度起きていて、昨日買っておいたパンを食べて、丁寧に髭を剃り、Kの頭を整髪料で整えて、紺のブレザーとKはスーツでタクシーに乗り込んだ。
弁護士会館で弁護士の方々や一緒に提訴する仲間たちに会う。これから始まる人生を賭けた戦いの前に、誰もが皆少し緊張しているのがわかる。
地方裁判所の前に来ると、見たこともない報道陣の人だかりが黒い一群となって見えた。以前、渋谷区パートナーシップに関する条例が可決された時の、更に5倍くらい多いだろうか。
地方裁判所で訴状を提出、一度弁護士会館に戻り、今度は午後から記者会見。ここでは、原告による1人1分間のスピーチが組み込まれていて、あらかじめ原稿を用意しておいた。
記者の数がギッシリ詰まった霞ヶ関の記者クラブでは、それぞれの原告の思いを聴きながら胸に熱いものがこみ上げてきた。途中、涙を流す原告もいて、それぞれさまざまな経験を思い出しているのだなあと思った。(これは後ほど貼り付けておきますね)
僕たちは取材を受けず、一旦家に帰り、Kはジムに行ってしまった。大きな一仕事を終えた僕はなんだかどっと疲れが出たようで、眠りたいと思ったけど、不思議な興奮状態で頭は冴えわたっていて眠れなかった。
夜に予定されていた永田町での応援パーティーにタクシーで向かう。僕たちはお色直しと言って着るものを着替えて新鮮な気持ちでパーティーへ。ここでもまた一言ずつスピーチがあり、最後に話した僕はみんなを笑わせることができた。
今日は、アメリカでは50年以上かかった同性婚の争いが、日本でもようやく土俵に乗った記念すべき日。
50年かかってしまったら、僕はもう生きてその日を見ることは出来ないと思う。どうか5年以内に、なんらかの形でこの国の事態が変わり、同性婚が認められる日が来てくれることを願っている。
この記念すべき日を一緒に分かち合った同士に感謝するとともに、今日という日をKとふたりで迎えられたことを、神様に心から感謝した。
⭐️「天国に行くとき、最後のお別れを最愛の人と手をつないで迎えたい」同性婚が認められたら、できること。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/teiso-kaiken-ehe_jp_5c653863e4b0233af971b658

祝杯。

会社に入る前から、ずっとずっと夢だった公共広告の競合に、自分の企画で勝利することが出来た。
それは、いくつもの星の中から1つが選ばれるような確率で、とても狭き門だと言われている案件。
夕方、その知らせを聞いて、いち早く病院にいるKにLINEを打った。
「やったよ!Kちゃん!ついに案が通ったよ!」
「ただしくん!おめでとう!帰ったらお祝いしないとね!」
Kが帰ってきて、解凍したハンバーグを焼いて、サラダと、野菜を蒸して、パンを焼きなおして、ブリーを出して食卓へ。
クリスマスに買ってあったシャンパンを開けて、ふたりでお祝いをした。
僕のような平凡な人間は、人生の中で自分のお祝いをするなんてことは、そうそうないものだと思う。
気恥ずかしさもあるけど、心の底からうれしい時に、一緒になって喜んでくれる人のいることが、こんなにも幸せなことだと、改めて思い知った。
ありがとう。
このうれしい出来事も、Kのおかげです。

ファースト・マン

クレア・フォイが素晴らしい

今年、最も好きな映画に出会ってしまった。
『ファースト・マン』は、『ラ・ラ・ランド』や『セッション』のデイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング主演、これはもう見ないわけにはいかないでしょう。
世界で初めて月面着陸を果たしたニール・アームストロングの自伝を元に製作されたこの映画は、ハリウッド映画にありがちなきらびやかな光が、どこにも一切見当たらないひたむきで地味な作品だった。
デイミアン監督とライアンゴズリングは、実際にニール・アームストロングの息子さんふたりと長い時間を通して話し合い、ふたりは彼らの作ろうとしている映画がお父さんの生き様を忠実に描きたいという主旨だと確信できたようだ。
『ファースト・マン』の映画の構想自体は、『ラ・ラ・ランド』よりも早くから始まっていたのだけど、膨大な資料の調査を行い、長い年月をかけて脚本化していったようだ。
アポロ11号の装置を今映画で見ると、よくもこんな子どもが作ったような乗り物で月まで行けると考えたなあと驚くほど、手作り感が透けて見える。
この映画がブレルことなく作ろうとしたものは、世界で初めて月面着陸という偉業を成し遂げた男の内面の姿であり本当のニール・アームストロングの姿だ。
情に流されることなく冷徹に自分の任務を貫き通したライアン・ゴズリングも凄いけど、彼を支える奥さんや子どもたち、周りの仲間たちがとてもいい。
宇宙船のシーンでは、手のひらから汗が溢れ出る、演出と編集の巧み、デイミアン・チャゼル、恐るべしと思わせてくれる素晴らしい作品。
⭐️https://firstman.jp/sp/

冬の寒い夜に。

夜中に真っ暗な中でふと目覚めて布団から出ると、外気は冷え切っていて、2月がやはり一年の中でも一番寒いのだと思う。
トイレに行き、お水を飲んで、また布団に潜り込む。
部屋の外はとても寒くて、布団の中はほのかに温かい。なんという幸福だろうか。
そっと手を伸ばすと、隣には無防備に寝ているKの身体があって、その温かな体温が伝わってくる。
冬の寒い夜に、隣で寝ていてくれる人がいることの、なんという幸福だろうか。
僕たちはこれからふたり、寒くて真っ暗な闇の中に放り出されるのかもしれない。
時に家族とは、大変な時をともに乗り越えていく戦友のよう。
この先何が起ころうとも、ふたりでいればなんとかなるさ。

バーニング劇場版

男の子がふたりとも可愛かった❤️

映画『バーニング劇場版』は、村上春樹さんの『納屋を焼く』が原作だそうだ。これまたBridgeのMのお気に入りですすめられて、今週末は映画三昧の週末を過ごした。
『納屋を焼く』は、随分昔に読んだ記憶があるけど、全くストーリーを忘れてしまっていた。
僕が読んだ村上春樹さんの作品で、一番好きなものは、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』。近年の作品はいつのまにか興味を失ってしまい、もう長いこと読んでいない。
映画は、玄人好みのとてもよくできた映画だった。韓国の監督イ・チャンドンは、凄い力量だと唸らされた。明らかに、韓国映画界の方が今の日本映画界よりも勢いがあるような気がする。
結論から言うと、スリルやサスペンスが好きならば、見ている間中楽しめる作品だと思う。
映画の根底にあるものは、どうにもし難い格差社会や理不尽な現実だろうか。
映画館にはハルキストが溢れ、いっぱいになっていたけど、ハルキストはどう思っただろうか?
人が急に居なくなってしまうような話が好きな人は、見に行ってもいいかもしれない。
高校の頃、友人に勧められて読んだ村上春樹さんの作品を、この映画を見て、今はもう、自分が変わってしまったのだと思い知った。さらば、青春時代。
⭐️バーニング劇場版http://burning-movie.jp

ヴィクトリア女王最期の秘密

007のM役で知られているジュディ・デンチは、どうやら今年で85歳になるそうだ。85歳というと、これから何本の映画に出られるのかと思うし、出ている映画はきちんと見ておきたいと思う。
新宿2丁目のBridgeのMがすすめてくれたので、映画『ヴィクトリア女王最期の秘密』という映画を観に行った。彼は多分、僕が『女王』ものの映画が好きだと思っているのだろう・・・。
映画は、あるインド人の死後に見つかった日記から、ヴィクトリア女王と生前交流があったということが明るみに出て、制作された映画のようだ。ヴィクトリア女王の死後、息子のエドワード8世によって、彼の存在はなかったこととされていたのだとか。
時代は1887年大英帝国が最も力を持っていた時代。インドが英領になって29年も経った年に、田舎町に暮らすアブドゥルという青年に、ヴィクトリア女王即位50周年記念式典で記念の硬貨を渡す役をおおせつかう。
誰もが緊張する宴の席で女王に金貨を渡すアブドゥルは、その物怖じしない態度から女王に見初められ、やがてヴィクトリア女王の日常に欠かせない存在となってゆく。
舞台は、実際に女王が愛した離宮『オズボーンハウス』で撮影され、豪華な衣装や王宮ならではの儀式などを忠実に再現されているようだ。映画として素晴らしい作品というわけではないが、女王ファンならずとも、王宮ファンには見所満載の映画。
⭐️ヴィクトリア女王最期の秘密http://www.victoria-abdul.jp