こころ傷んでたえがたき日に

そこに書かれている物語はどれも、この国の片隅で生きる人々の話。どこにでもいそうな人も出てくるけど、「こんな目に遭っている人もいたのか・・・」と思うような人もいる。
『新聞配達六十年』は、京都の町で、なんと新聞配達を六十年以上続けている男の一日。
『ああ、なんてみじめな』は、妻がほかの男と関係を持ち、出産をし、育てる、生き地獄のような男の話。
『彼と彼女と私』では、思いがけず村上春樹さんが作家になる前の姿が浮かび上がる。
『街のサンドイッチマン』は、横浜の交差点に立ち続けるサンドイッチマンに密着した話。
著者は、日がビルに当たっているところだとか、黒いスーツを着て黒い傘を持っているとか、自分が見ている情景を淡々と描写しながら、同時に出てくる人々を描き出してゆく。文章がクールで、変に感情移入するところがないところがこちらの想像力を膨らませてくれる。
『僕のお守り』という話では、祈るような気持ちで読み、読み終わってから胸がいつまでも熱く感じられた。
ポール・オースターの『ナショナルストーリープロジェクト』を読んだ時のように、自分のさもない人生さえも愛おしく感じられるような珠玉の一冊。
⭐️こころ傷んでたえがたき日に 上原隆 著 幻冬社https://www.gentosha.co.jp/book/b11877.html
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