55歳の決断。

5年くらい一緒に仕事をしていた55歳の上司のNさんが、打ち合わせの途中で突然言った。
「実は、10月終わりから名古屋勤務になったんだ」
僕はとても驚いて、Nさんの顔をまじまじと見ていた。
ちょっとおばちゃん臭いところはあるけどストレートで、人柄も良く頭の回転も早く、人の悪口を言わず、打ち合わせにはきちんと自分なりのアイデアを持ってくるNさんのことを、僕はとても尊敬していたのだ。
「そんなNさんが、まさか…左遷?」と思った矢先、Nさんがこちらの思いを察したのか続けた。
「こないだ親父が亡くなった時、そばにいてやれなくて、年取った母のことを考えた時に、出来るだけそばにいてあげようと思って…
こないだ会社に異動願いを出したところなんだけど、それが思いのほかすんなり受け入れられてすぐに決まったんだ。うちの会社ってそういうところすごいよな」
そんな話を聞きながら、「Nさんの人生の選択は素晴らしいなぁ」と思っていたのだった。
仕事や人にもよるのかもしれないけど、だいたい40歳くらいまでで一通りの仕事は終えてしまい、40代後半から50歳になる頃には、次の人生を考えはじめるのではないだろうか。
Nさんは、東京本社でそのままいれば、それはそれで安泰だったと思う。でも、そうではなくて、住んだことのない地方に移り、ご家族と一緒に過ごす時間を選んだのだった。
Nさんはどうやら、そっちの選択の方がワクワクするということを、本能的にわかっていたのだろう。
ちょっと寂しくなるけど、今度一緒に飲んだ時にこれから先の人生のことを、Nさんにもっと聞いてみようと思ったのだ。

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