モーリス

舞台は、今から108年前のイギリス。同性愛がまだ、犯罪で逮捕されるような時代に、ふたりの美しい男性が、ケンブリッジ大学で出会う。
モーリス映画公開30年目だというので計算してみると、はじめてこの映画を観に行った時は、僕はまだ19歳だったのか…と改めて愕然とした。
僕の記憶にあるのは、禁じられた恋愛にもがき苦しむ自分と同じ世代の男の姿。そして、モーリスの白くプヨッとした身体とキャラクターが好きになれず、どうしてもヒューグラントばかり目で追っていたこと・・・笑
ゲイ映画の中で3本の指に入るくらい有名な作品なのだけど、年を経て、もう一度モーリスを観て、改めてとても素晴らしい作品だと思った。
言葉では決して説明することの出来ないせつない気持ち、繊細な陰影を用いて描いき出す感情は、この映画ならではの醍醐味だと思う。
新宿の角川シネマで上映しているので、この映画を一度も観たことのない人には、この機会にぜひご覧になっていただきたいと思う。ゲイ映画の代表作として必修映画だと思うし、せつなさに胸が痛くなると思うから。
ただ改めて思ったことは、僕自身はこの映画のことを、大好きな映画ではなかったのだと改めて感じたこと。(モーリスのプヨプヨな身体のせいかもしれない)
一度観た映画を、30年経ったのちにもう一度観てあれこれ考えを巡らせることが出来ること自体、なんて素晴らしいのだろうか。
⭐︎モーリスhttp://cinemakadokawa.jp/maurice/

モリーズゲーム

冬季オリンピック候補になった過去を持ち、頭脳明晰で有名大学に進むはずだったモリー・ブルームは、いつのまにかハリウッドやニューヨークにおいて、大富豪を集めて賭博を仕切る女になっていった。
実在する女性の生い立ちから、信じられない規模の賭博行為に発展してゆく彼女の半生をじっくりと追っていった映画。
主役のジェシカ・チャステインは、やはり今一番注目される女優だと、改めて感じさせてくれる素晴らしい演技だった。
脚本が素晴らしく、長い尺にもかかわらずぐいぐい引き込まれてゆき少しも飽きさせない素晴らしい作品。今年、最も見応えのあった映画のひとつ。
⭐️モリーズゲームhttp://mollysgame.jp/sp/index.php

Engineered Garments

派手ですかね…

2月頃に、伊勢丹メンズ館でド派手なアフリカンプリントのパッチワークで出来たジャケットを見つけた。
でもサイズがXSしかなく、諦めたのだった。
久しぶりにそのフロアを訪れると、その時に諦めたジャケットが入っていた。
僕はこの時、すでに情熱は冷めてしまっていて買う気はなかったのだ。ただ、ちょっと袖を通してみようかなと…。
店員さんにお願いして、鏡の前でジャケットに袖を通す。
「あれ、なんか、いい感じ…」
「サイズもぴったりですね…」
「ちょっと袖を通して帰るつもりだったんですけど…もらって帰ろうかな…」
学生の頃に知った『ネペンテス』から出ている『engineered garments』だから、学生のころの好きは、今も変わらないんだろうな。
そんなこんなで、久しぶりに気狂いみたいなジャケットを買ってしまった。
新しい洋服は、元気をくれる。
⭐️Engineered Garmentshttp://www.nepenthes.co.jp/

18歳のゲイ。

パレードの時に、「一緒に写真を撮らせてください!」と言われて、「いいですよ」と答えて写真を撮った男の子が、年を聞くと「18歳」と言うのだ。
「18歳???
俺、31歳も年上じゃん!」
もしかしたらお父さんよりも相当上だろう…と思い、ショックを受けていたのだ。今日はその18歳の青年Sと、一緒に食事をしてお話をした。
ファッションの大学に通うSは、熊本から上京してきてまだ1ヶ月と少し。本当は美術大学に行きたかったけど、狙ったところが落ちてしまい、浪人する気はなかったので、前に進もうと思い、得意だったファッションの大学へ進んだそうだ。
今の大学でいいと思うことは、英語を勉強しつつ、世界のファッション業界を目指せるところだという。
いろいろ話す中でわかったことは、ファッションにも興味あるけど、広告にも興味あるし、テレビにも興味あるし、自分がこの先どんな仕事に就くか、今はまだ決められないと言う。
僕「そりゃあそうだよ。18歳だもんな。」
長身で、爽やかな瞳で、ルックスも素晴らしいSは、パレード会場でも色々な人に声をかけられ、写真を撮影されたらしい。
S「そんなのみんな、僕が18歳だからなんですよね。今の僕には何にもないんです。」
それでも夢は、テレビやマスコミに出てLGBTのひとりとして活躍することだと言うのだ。
僕「テレビなんて出なくてもいいし、有名になんてならなくてもいいじゃん。それよりも、自分が本当にやりたいことをやった方がいいよ」
S「そうですかねー・・・今の僕にはなんにもないから・・・」
18歳の頃に自分を思い浮かべて見ると、浪人をしていて、2丁目に入り浸っていて、生意気でろくでもない若者だったと思う。
それにひきかえ、このつぶらな瞳の青年は、僕に比べてなんてきちんと将来のことを考え、キラキラしているのだろう・・・。
誰も若者に、人生のアドバイスをすることなんて出来ないのだと思う。
誰の人生でもない自分の人生を、思うように生きるだけだ。
僕がせいぜい18歳のゲイの青年に遺せるのは、『二人で生きる技術』(大塚隆史 著)を渡すくらいだった。
ゲイとして生きてゆく中で、これから想像もできないようなことが沢山あるのだと思う。何か迷ったり、傷ついた時には、『二人で生きる技術』が助けてくれるかもしれない。
⭐︎二人で生きる技術 (大塚隆史 著)http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0135-4.html

鮨 臥龍

先日考えてみたら、東京にいる時にはほとんどお寿司を食べに行かないことに気づいた。
会社がずっと築地近辺だったりしたので、安くて美味しいお寿司ならランチで食べていたからだろう。東京の高級お寿司屋さんは総合点で日本一かもしれないけど、その値段を東京で払ってまでお寿司を食べたいとは思わないのが東京人ではないだろうか?
そうは言ってもなにかのつきあいでお寿司屋さんに行くことは稀にあり、大抵外国からのゲストなどのリクエストに応えるかたちだ。
東京で、今まで行った中で好きだったお寿司屋さんは、六本木の『なかむら』なのだけど、今回はじめて行った『鮨 臥龍(がりゅう)』は、久しぶりのヒットだった。
場所は、四谷三丁目の交差点のすぐ近く。
ドアを開けるとカウンターは、10席弱だろうか。
大将は左側にいて、とてもやさしく迎えてくれる。
サービスをする女性の笑顔がないが、大将の心遣いがそれをカバーしてくれる。
つまみは、その日の魚を厳選してあるのがわかる。
ホタルイカやウニ、イカも甘い。
北海道で獲れたというクロエビは、ボタン海老よりも大きく甘みが強く濃厚な味わいだ。握りも素晴らしく、さりげなくこちらのペースに合わせてくれる。
お任せで一通り今日のネタを食べて、お酒を抜きにするとだいたいひとり15000円くらいだろうか。
他の東京の寿司屋さんに比べても、とてもいいコスパだと思う。
⭐︎鮨 臥龍
03-3354-3188
東京都新宿区舟町1-18 ロイクラトン四谷1F
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130903/13127957/

緊急の時に。

先日、横浜の友人宅を訪れた帰り道、Kとふたり、元町から電車に乗って座っていたのだ。
すると、次の駅で人がどどっと乗ってきて、若い男性がひとり、ドアに頭を押し付けてもたれかかった。
どうやら横浜では野球の試合が終わったところのようで、ユニフォームを着ている人たちと一緒に男性も乗って来たので、「野球の試合で飲み過ぎたのだろう」くらいに思い、僕はスマホを見ていた。
するとKが、「なんか、あの人様子がおかしい」と言うのだ。僕は、ドアにもたれている若者を見ながら、「酒に酔ってるんじゃない?」とまともに取り合わずにいた。
すると、少ししたのちにその若者が今度は床に眠るように倒れたのだ。そこで僕は驚いて、それでもどうしたものかと戸惑っていた。周りの人たちもみんな関わり合いを持ちたくないような感じで若者を避けるように立っていた。
そこですかさずKが立ち上がり、「大丈夫ですか?」と若者に声をかけた。僕も心配になり、席を立って若者に近寄った。
若者は、意識がなく、何も答えなかったので、Kは若者を抱きかかえ叫んだ。
「どなたか、電車の緊急ボタンを押してください。次の駅で止まってからでもいいので!」
側で避けていたおばさんが、「具合悪い人はそっとしておいた方がいいんじゃないですか?」と呟いたので、僕が「この人、病院につといめてるんです」と言った。
駅に着いてアナウンスが入り、駅員さんが走って来て若者を抱えて外に出た。僕たちはこれで一安心・・・と思い、席に戻ろうと中に入ったのだけど、席は周りにいたおばさんと女性が占拠して座ってスマホをいじっていた。
とっさのことで、僕もどうしていいのかわからなかったけど、Kが勇気ある行動に出てくれて、内心とても感動したのだ。
もう席には座ることは出来なかったけど、若者が無事に助かってくれたらいいなあと、気持ちは晴れ晴れとしていた。
公共の場で緊急の時には、人の行動力が試されることがある。
そんな時に、Kのように躊躇わず行動する人になりたいと、この年で改めて思った。

山椒の下処理。

大鍋で7分間茹でる

半分くらい取り終えたところ。

食材の下処理で、最も面倒な作業をあげるとすると、僕の場合は『山椒の実をはずすこと』と答える。
小さな小枝についた山椒の実を外す作業は、やった人ならわかるけど、ちょっと気が狂いそうなほど手間がかかるものだ。
京都産の山椒の実が出回るこの季節、2パック買ってきて久しぶりに山椒の実を外しはじめたのだけど、すぐに時間が経ってしまい、残りはKが帰ってきてから一緒にやることに。
〈山椒の実の処理〉
1,鍋にたっぷりの湯を沸かし塩を少し入れて、山椒の実を7分くらい弱火で茹でる。
2,茹だったら、たっぷりの水に1時間浸けておく。(辛めが好きな人は、30分でよい)
3,実を小枝から地道に外す。
4,実をまとめて冷凍にする。(1年間はゆうに持つ)
面倒臭がり屋の僕は、多少小枝が実についていてもまあいいか・・・とそのままにしてしまうけど、生真面目なKは、集中してとても丁寧に小枝を外していた。
面倒くさい作業ではあるけど、こうして山椒をたっぷり冷凍しておくと、鰯と煮たり、自家製じゃこ山椒を作ったり、とにかく重宝するのだ。
竹の子もそうなのだけど、山椒はなぜか京都産のものがやはり美味しい。なんでですかね?

ザ・スクエア 思いやりの聖域

カンヌのパラドールを取った作品ということで、ちょっと身構えて観に行ったのだけど、案の定、不思議な世界観を持った映画だった。(かなり変わった作品なので、一般的にみんなにおすすめ出来る作品ではない)
主人公のクリスティアンは50代だろうか、ハンサムで美術館のトップの権限を持ち成功を手に入れている。順風満帆に見える生活の中で、小さな事件が起こり、その事件への何気ない対応から、少しずつ彼の人生の歯車が狂いはじめてゆく・・・。
作品を観ているうちに、自分自身が主人公の行動や意識と同化していき、なんとも言えない居心地の悪さを感じるようになる。モヤモヤとした気持ちはやがて得体の知れない罪悪感へと変わり、現在の西欧が牽引してきた資本主義社会が築いた豊かさへの警鐘に変わってゆく。
作品自体が現代アートのような趣を兼ね備えている。映画を観ているうちに傍観者ではいられなくなり、いつのまにかこの不思議な映画の世界の真っ只中に立ち、路頭に迷うことになるのだった。
もう一度観たい映画ではないけど、映画の可能性を感じさせてくれた作品。一緒に観たKは、「ここ最近で一番つまらなかった」と言っていた。笑
⭐︎ザ・スクエア 思いやりの聖域http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/

横浜のHの家に。

Kの仕事が1時で終わり、そのまま横浜に住む友人Hさんの家に遊びに行った。
Hは63歳。もう随分前から知っているのだけど、時々『タックス・ノット』で席が近くなった時に話していたような人。ハンサムで独特の雰囲気を持っていて、僕と同じように美術大学を出た後、様々な仕事をしてきた不思議な人だ。
Kは今までHには会ったことはなく、人見知りのため少々緊張していたようだったけど、会うなり一気に話しまくるHの開けっぴろげな人柄に、すぐにうちとけていった。
Hは遅めの昼食を準備していてくれて、3人でゆっくりとランチをいただきながら話は進んでゆく。
Hはすでに仕事をリタイアしていて、家で編み物をしたり、メルカリにいろいろなものを出品したり、自由に暮らしている。
今回はいなかったのだけど、HにはTさんという恋人がいて、ふたりはつきあいはじめて2年半以上過ぎたようだ。ふたりのなれそめや、お揃いの指輪を作ったときの話をしてくれる。Tさんは東京で暮らしているため、会えるのは週末になるようだけど、ふたりは今もアツアツなカップルなのだ。
Hは先日、自分の入っている保険会社に交渉して、保険金の受け取りを同姓パートナーにできないか相談したようだ。その会社自体は表立って同姓パートナーシップを指示していたわけではないのだけど、何度か保険会社の人に会いお話ししたのち、送られて来た保険証書は、きちんとTさんの名前に変更されていたという。
こんなことを知ることで、実際に日本が少しずつ変わって来ているのを実感できる。
暗くなる前に家を出ようとする僕たちを、Hは何度も引き止めたのだけど、僕たちは「また遊びにきますね」と言って、元町まで車で送ってもらった。今度は、HとTと一緒に会えたらいいなあと思う。年の離れたゲイカップル同士、色々な話ができると思うのだ。
小さくなってゆくHのクルマを見送りながら、また遊びに来たいと思ったのだった。

あじさいの季節。

ディープパープル

アナベル

バラが咲きはじめたのが今年は5月11日頃だったので、バラはもう1ヶ月以上咲いていることになる。今はもう盛りを過ぎたように見えるバラは、今月いっぱいが見納めだろうか。
どんな花であっても、花の咲く期間は、だいたい2週間くらいと言われている。
植物を選ぶときは、季節を見渡して、どの時期にどんな花の咲く植物を植えるかによって、庭やベランダのテーマが変わってくるのだ。
バラを選ぶ時に、春の間のほんの2週間くらいしか咲かないバラを選ぶか、季節を通して何度も咲く品種改良されたバラを選ぶか迷うところだけど、僕はこの、春一度きりのオールドローズの美しさを知っているから、バラは一季咲きでいいと思っている。
我が家のベランダでは、バラとクレマチスが終わりを迎える頃、アジサイたちが蕾を静かに延ばしはじめる。
昨年買った『ディープパープル』は、今年もきちんと花芽をつけてくれたようだ。ずっと昔からある『アナベル』は、今年伸びる枝に花をつけてゆくタイプ。これから梅雨に向かってゆくベランダで、アジサイはやさしく咲き続けてくれるだろう。
忙しくて、気にも留めない毎日の中でも、植物は季節ごとに命を謳歌している。