I の半生。

時々一緒に仕事をしていた同期のIが会社を辞めたのは、もう10年近く前だろうか?
現役東大卒で、仕事もできてやさしくて、品格のあるIのことを、折に触れ僕は思い出していたのだ。
その後、どうしているのかと気になって、時々ネットで検索していたのだけど見つからず、先日Iの実家のある福岡のワードを入れてみると、手がかりが見つかり、そこからIのアドレスにメールを送り、返信をもらった。
GW明けに会おうと言っていたその水曜日がやって来た。Iの選んだ銀座のカフェで、ランチの後に僕たちは待ち合わせた。
少し太ったように見えるけどあまり変わらない姿を見つけてホッとして、そのあと矢継ぎ早にIのその後の人生を聞き出した。
会社を辞めたのは、Iが不倫をしてしまい、それが明るみに出てしまったことで移動になり、そこでも酷い扱いを受けて仕事を変わり、九州に移ったようだった。
当時から性欲旺盛だったIのことなので、そんなことには驚かなかった。(そもそも、誰が誰と不倫をしようが、本来他者の介入する話ではないと思うので)
その後転職先の会社でクライアントと大きな問題が持ち上がり、裁判沙汰手前にまでなって会社を辞めさせられていたのだった。
知らなかったことなのだけど、一人息子はその後発達障害であることがわかり、奥さんはノイローゼになり鬱病と診断され、結局離婚したのだった。
途中までは順風満帆に見えたIの半生、なんてドラマティックなのだろうかと思う。
「よく生きていたね。そして、こんなに元気になれたね」
そんな風に言う僕に、Iは笑って答えた。
「よく、政治家の秘書とかで自殺してしまったり、殺されたりする人いるでしょう?
僕はちょうどあんな感じだったから、生きていられるだけでもありがたいと思わないとね」
僕はIが、辛酸を舐めていた時、誰も味方のいないように感じたであろう時に、できればIの話を聞いてあげられるような友人でありたかったと思う。
沢山苦労を経験して、Iはそれでも新しい人生を自由に楽しんでいるように見えた。

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