アッパーウエストの家。

今回、6月にニューヨークとサンフランシスコに行くことになったのだけど、ニューヨークには若い頃とてもよく行っていたので、友人たちも未だにほんの少し住んでいる。
そのうちのひとりのAさん(生きていたらおよそ73歳くらい)は、8年前にニューヨークに行った時に、久しぶりにAさんの家に10日間くらい泊めていただいたことがある。
若いうちにニューヨークに住んで、Bさんというアメリカ人と付き合いはじめてずっとニューヨーク暮らしだったAさんは、飼っていた愛犬に先立たれたのち、年上だったBさんが先に逝ってしまったのだった。
その後Aさんは力をなくし、お酒浸りになってしまったのだった。
僕が行ったのは、Aさんがアル中になってどうしようもない状態になってしまっている時で、ニューヨーク滞在中は、毎朝和食のご飯を作っては、家を掃除していた。
Aさんは、夜に僕が帰ってきてから、その日あった出来事を聞いて、自分の昔話を僕にするのが好きだった。
お話は、もう亡くなってしまったBのことや、愛娘のように可愛がっていた柴犬のMのこと。
時々酔っ払いすぎていたAさんは、友人に対する恨み辛みも口にすることもあったけど、そんな時は僕は聞き流すようにしていた。
Aさんは、僕に「好きなものをなんでも持って行きなさい」と家の中の自分の宝物を渡そうとしたのだけど、僕はなにも手にせず帰ってきた。
僕がまだ大学生だった頃、AさんとBさんの家に泊めてもらって、夜遊びをしてAさんの家に帰ると、いつも決まって完璧な和食を作って僕の帰りを待っていてくれたことを思い出す。
何も言わず、僕の滞在中はなんの不安も抱かないように、僕に気を遣ってくれたAさんとBさんを思い出す。
今はもう会えなくなってしまったけれども、僕にとってニューヨークといえば、思い出すのはAさんとBさんのアッパーウエストの家だ。
カテゴリーgay

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です