バリ島旅行記vol.9(世界一の時間)

昔、あるブランドの海外におけるローンチ広告の仕事で、『世界一幸福な時間』が、地球上の同じ時間に、様々な都市で起きていたらいいなあ…とコンセプトを考えて、立案したことがある。そのキャンペーンは、『世界同一時刻』というテーマで実現された。
その時に、世界中を飛び回り、撮影をしながら思ったことは、「世界一の時間というものは、いったいどこにあるのだろう・・・」ということだった。
黄昏時のクロボカン(スミニャックの北)の浜辺で、僕たちはいつものようにバリ島最後の夕暮れの時間を過ごしていた。
犬を連れて白髪混じりの男と若い女のカップルが散歩をしている。
小さな子どもは、いつものように凧を夢中で上げている。
お母さんは、2歳くらいの小さな子どもを連れて、砂浜で遊んでいる。子どもは言うことを聞かずにすぐに好奇心のままに歩いて行ってしまう。
白人の女の人が、集まってきたたくさんの野犬に囲まれてパンをあげている。
おばあさんは今日もまた、バティックプリントの布を広げて、観光客に売ろうとしている。
サーフィンを教える真っ黒なバリ人の男は、海の家の片付けを手伝いながら、犬にいたずらをして自分のお尻を噛まれて逃げ回っている。
夕陽が最後の力を振り絞って、雲の間からその完璧な姿を見せ始めた時に、白人のおじいさんが僕に、「このスマホのカメラが今おかしくなっちゃったんだけど、わかるか?」と聞いて来た。見ると、スマホは勝手に動いていて、彼の娘や孫たちの撮り溜められた写真を自動的に再生していた。
僕はそのスマホを手にとってあれこれいじって何とかカメラモードを立ち上げ渡すと、おじいさんは写真を撮る前につぶやいた。
「ああ、美しさがいってしまう・・・」
おじいさんはこれほど年を取ってもまだ、目の前の海に沈んでゆく完璧な夕陽をなんとかカメラに収めたかったのだった。
それは、僕やあなたの、目の前で起こっていること。
夕陽を見つめているKの頬を撫でてみる。
世界一の時間は、僕たちのすぐ目の前にある。
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