家の外の音。

毎朝、7時過ぎになると、隣の家からピアノを弾く音が聞こえてくる。
僕の家は、毎朝、雨が降っていてもすべての窓を全開にしているので、外の音が聞こえて来るのだ。
それは、ピアノを習いはじめたばかりのような、たどたどしい音で、うまいとか下手とかいうレベルまで行っていないぎこちない音。隣で暮らす小さな女の子が弾いているのだと思うのだけど、もしかしたら、練習をはじめたばかりのお母さんかもしれない。
毎朝、そのぎこちないピアノの音が聞こえてくると、僕とKは、「あっ、ピアノがはじまった」と言って、僕は朝ご飯を用意しながら、Kは洗濯物を干しながら、なんとはなしに聞いている。
そんなたどたどしいピアノを聴きながら、僕たちは朝ご飯を食べる。
「ちょっとずつ上達してるのかな?」
「うん・・・あんまり変わってないみたいだけど、練習がんばってるね」
またしばらくすると、カンカン、カンカン・・・という音が、下の道から聞こえてくる。
家の前の道を、杖を道に当てながら歩いてくるスーツ姿の男性。年齢は30代前半くらいだろうか、目が不自由なようで、杖をつきながら、道を確かめるように歩いている。
この男性は、夜に帰る時も、同じ道を逆側から通るので、同じ音がすると、
「あのお兄さん、今から帰るんだね・・・」
「いつも、ほとんど同じ時間だね・・・」
などと言って、ベランダに出てお兄さんがちゃんと歩いて行けるだろうかと僕とKは確認する。
そんなたどたどしいピアノの音や、目の不自由なお兄さんが通る音は、決して嫌な音なんかではなく、僕たちふたりの毎日の暮らしの中の音なのだ。

organic 732

気に入ったタオルを見つけることは、以外に難しい。
お店で触り心地がいいなあ・・・と思っても、買って帰って家で使ってみるとがっかりすることが多い。タオルは、洗濯をしたのち、実際に水のついた手で使ってみなければ、その吸水性も全くわからないものだ。
そして、その使い心地がいまいちのタオルを使うことになる。何年も。何年も。
IKEUCHI ORGANICは、オーガニックコットンの今治タオル。お店の中に洗濯機と乾燥機があり、実際に何度も何度も洗濯して乾燥させたたタオルを試させてくれるのがうれしい。
柔らかさを重視したものから、しっかりとしたものまで、また、速乾性にすぐれたものから、吸水性を重視したものまで、幅広いタオルの性質の中から、自分に合ったタオルを選ぶことが出来る。
Kとふたりで、骨董通りのお店に行き、ふたりで選んだのは、『オーガニック732』。
それはそうと、女の子とかおばさんって、なぜだか、タオルが好きじゃないですか?お中元や贈り物にタオルを贈る人も多いし・・・。
買った後にKは、とてもうれしそうにタオルを持ち抱えて歩いていた。
★http://www.ikeuchi.org/webshop/

はらまさ。

車海老とウニ、湯葉に出汁ジュレ。穴子寿司

蟹と蟹味噌の茶碗蒸し

黒トリュフごはん

久しぶりにとてもリーズナブルな素晴らしいお店を見つけた。
曙橋の駅のすぐ近く、靖国通りに面した和食のお店『はらまさ』。
お料理の感想を全体的に述べると、旨味の強い食材を活かし、フレンチと和食を掛け合わせたような料理とでも言おうか。
★車海老とウニ、湯葉にお出汁のジュレをかけたもの。穴子のお寿司。
キスとアスパラの天ぷら、青海苔と酒盗のソースがけ。
マグロとヒラメのお造り、肝醤油。
★蟹味噌と蟹の茶碗蒸し。
鰻と冬瓜のお吸い物。
鮎とうるか。
茄子と牛肉の炊き合わせ。
★黒トリュフの炊き込みごはん。
ぜんざい。
★印のものが特に美味しかったのだけど、これでもか!というくらい旨味がてんこ盛りなのだ。
最後に出る炊き込みごはん黒トリュフがけは、魔性の味とでも言おうか、バターと醤油、そして黒トリュフの香りが混ざり合い、トリュフなのに日本人心をぐっと掴まれる。
二杯目は、卵の黄身がけごはんに。これがまた、悶絶する美味しさだった。
これから人気店になると思うので、予約は早めに入れたほうがよいと思う。
★はらまさ
03-5312-7307
東京都新宿区片町2-2 アーバンクレスト片町 1F
http://tabelog.com/tokyo/A1309/A130903/13151542/

長春館(てんでバラバラで、みんな違うということ)

特選三種盛り(おすすめ)

新宿三丁目の端っこに、焼肉屋『長春館』がある。
若い頃から何度も訪れている、新宿二丁目界隈では老舗の焼肉屋さんなのだけど、このところ、月に一度はここで焼肉を食べている。
この店の焼肉はコスパが高いと思うのだけど…この店で特筆すべきことは、店員さんが変わっていてとにかく妙なことだ。
英語で言うところの、『weird』と言ったところだろうか。
一階の怪しい眼鏡をかけたおじいさんは、ぶっきらぼうだけど店の全体を取り仕切っていて、店内には様々な店員さんがいる。
インド系の男の子、ラテン系の男の人、金髪の色が落ちかかった派手なおばちゃん、3人分くらい太った日本人のお兄ちゃん、あまり笑わない強面の韓国系おばちゃん…
なんでだかよくはわからないのだけど、ここで、人種も年齢も見た感じも、てんでバラバラな店員さんたちを見ていると、僕はなんだかホッとするのだ。
Kと一緒に、「なんだか今日の店員さんの組み合わせも物凄く変わってるね…」なんて笑いながら、特選三種盛りをいただいた。
★長春館
03-3354-5141
東京都新宿区新宿3-8-10
http://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13006798/

支那そば屋 こうや

ワンタン

巨大なタンメン

支那麺(これが美味しかった)

タモリさんが行きつけのワンタンメンの美味しいお店があると聞いていて、ずっと行きたかった店『支那そば屋 こうや』に行くことができた。
場所は、四谷から四谷三丁目に向かって歩く途中、三井ガーデンホテルの裏側になる。
タモリさんといえば、食通で知られていて、地元の福岡でも何軒か行きつけのお店があるようで、そんな情報を知るたびに、Kと楽しみにして店に行っている。
福岡では、鰻屋さんの『吉塚うなぎ屋』、『うどん平』、『八ちゃんラーメン』…どの店も個性的で、また行きたくなるような美味しいお店ばかり。
『支那そば屋 こうや』では、はじめにワンタンと青菜と椎茸の炒め物を頼んでしまった。お酒を飲みながら、軽くつまみたいと思ったのだ。
そしてそのボリュームに驚いた。これでは、ワンタンメンまでいけないのではないか…。
ワンタンはすでに食べてしまったので、僕はタンメンに、Kは、支那麺に。ワンタンメンは、この支那麺にワンタンが乗っているということだった。
ここでまた、タンメンの量にひっくり返りそうになった。
四谷という場所柄、学生を意識しているのか、余裕で二人分以上の大盛りなのだ。
僕は半分も食べることが出来ず、Kが食べてくれたのだけど、東京に出てきて、僕のせいで、ずいぶん太ったと、文句を言いながらも、パクパク平らげていた。
★支那そば屋 こうや
03-3351-1756
東京都新宿区四谷1-23 上野KGビル 1F
http://tabelog.com/tokyo/A1309/A130902/13000840/

PRAY FOR ORLANDO

アメリカのオーランドのゲイバーで銃が乱射され、53人が負傷し、49人が射殺されたというニュースがあった。
その後、このニュースが頭から離れず、事件はなぜ起こったのか?どんな背景があるのか?犯人はどんな男で、どういう家庭環境なのか?なぜゲイバーだったのか?なぜ無差別に大勢を巻き込み乱射をしたのか?次々と疑問が沸き起こった。
犯人は、アフガニスタン系の両親に育てられたアメリカ人で、敬虔なイスラム教徒の家庭で育った。事件の直後に犯人の父親のインタビューを読むと、重度のホモフォビアだとわかった。
その後、犯人がゲイだったのではないかという情報が流れた。乱射したクラブには前から通っていて、何人もの目撃者や話したことのある人がいたこと、Jack’dをはじめとしたゲイの出会い系アプリをいくつも使用していたことが明るみに出てきた・・・。
彼がゲイであったかどうかは今のところ実際にはわからない。でも、今ある情報を繋げてみると…
敬虔なイスラム教徒の両親に育てられた男は、自分がゲイであるということを自分自身が受け入れることが出来なかったのだろう。
両親をはじめ、周りに自分のセクシュアリティを言うことも出来ず、イスラム教徒の皆がそうするように女性と結婚をした。
やがて結婚生活は破綻して、奥さんには暴力まで振るうようになり、ついに離婚をした。
自分は本当は男性が好きであるという自分の中の内なる声を聞きながら、ゲイのアプリで出会いを探し、ゲイのナイトクラブにも出入りしていた。
自分の本当の姿を受け入れることが出来ない人を、いったい他の誰が受け入れることが出来るだろうか?
やがて男は、過激なISの思想に傾いていき、ISを攻撃するアメリカを攻撃するという報復に出たのだった。それも、セクシュアルマイノリティで賑わうゲイバーで。
そして、この事件をきっかけにして、犯人のお父さんの酷い言葉をはじめ、キリスト教側からも、耳を疑うようなことを言う人が出てきた。
http://news.livedoor.com/lite/article_detail/11647801/
こんなニュースを読んで、傷つかないゲイがいるだろうか?この事件の後、僕の周りでも心のバランスを崩している友人が何人もいた。
自分がゲイだとわかった日から今まで、ずっと自分がもうこれ以上傷つけられないようにと鎧をつけて生きてきたのに、ゲイであるというだけで嫌悪と憎悪、暴力を振りかざす人たちの存在を知ったからだ。
この事件は、例えば僕が、新宿二丁目のBridgeで、友人たちと楽しくお酒を飲んでいる時に、いきなり銃が乱射され、夥しい数の人が亡くなってしまったような、そんなおぞましい事件なのだ。
今、僕が出来ることは、「憎しみに対してNOを言うことではない」
正確な知識をきちんと広めることや確かな教育こそが必要なのだ。ゲイやセクシュアルマイノリティがこの世界には自然に存在するということ、それは、善悪などの話ではないということ。
憎しみに対してNOを唱えることは、憎しみに憎しみのカウンターパンチをしていることにしかならないからだ。憎しみは次の憎しみへと繋がってゆく。
渋谷のハチ公前に行き、僕は、オーランドで亡くなった人たち、大切なパートナーや家族を失ってしまった人たちにひたすら祈った。
PRAY FOR ORLANDO

ニューサマーオレンジ。

下田にはこの時期、ニューサマーオレンジがある。
オレンジという名前なのに、見た目はグレープフルーツのような黄色。
生産者が少ないのか、どこにでも売っている感じではなくて、駅にちょこっと不揃いのものが売っている感じだろうか。
りんごのように皮を剥いたら、ナイフでそのまま6等分くらいに切り、白い皮もそのまま食べる。
黄色い色でありながら、思ったほど酸味が強くはなく、爽やかな味わいがあり、甘みも適度にある。
そして、食べ終わった後に、口の中に何も残らずすっきりとしている。
なかなか東京では出会うことがないと思い、お土産に持って帰ってきたのだけど、机の上にあるニューサマーオレンジは、家の中にまた、下田の太陽がやってきたみたいに輝いている。

下田の美味しいお店。

おせいろ

海苔かけ蕎麦

小川屋のうな重

先日、蕎麦屋の『いし塚』のことは、ここに書きかけたのだけど、食事編として改めてまとめておきます。
僕が下田で好きなお店は、今のところ二店。
それは、蕎麦屋の『いし塚』、鰻屋の『小川屋』。(魚屋は、『ごろさや』に昔から行っているけど、他にもっといい店があるに違いないと探索中)
★いし塚
0558-23-1133
静岡県下田市敷根4-21
http://tabelog.com/shizuoka/A2205/A220503/22000017/
下田駅近くで、美味しい蕎麦が食べられる。店の佇まいも清々しい。蕎麦も、種類が絞ってある。
蕎麦つゆはほんの少し甘めで標準的。
蕎麦はコシがあり、終わる頃にはもっと食べたいと思ってしまう。
下田にお昼前に着いたら、直行するといいけど、開店と同時にお客さんがどんどん来る人気店。
★小川家
0558-22-0365
静岡県下田市2-8-14
http://tabelog.com/shizuoka/A2205/A220503/22000059/
旧市街の港のすぐ近くにあって、予約必要なお店。先代から代替わりして10年経つようだけど、若い大将の鰻に対する真摯な姿勢が、柔らかい鰻を作り上げることに成功している。
浜松や、三島の鰻とは違って、東京の鰻に近い。
ふっくらとした鰻を頬張る瞬間、言いようのない幸福感を感じるだろう。

海。

朝陽

なぜ下田が好きなの?
と聞かれたら、「海が綺麗だから」と答える。
下田の海に来ると、熱海や伊東の海では、物足りなくなるのだ。
それに、下田の町の歴史も興味深いし、町の大きさもちょうどいい感じなのだ。
下田には、会員制のホテルがいくつかあるみたいだけど、気軽に泊まれるホテルの中では、下田東急ホテルか下田プリンスホテルがいいと思う。
下田東急ホテルは、少し小高い山の上にあるので、美しい海岸を上から見下ろす感じ。
僕が好きなのは、白浜の外れに位置していて、まるでプライベートビーチのように海に面した下田プリンスホテルだ。
ホテルから海まで1分といったところだろうか。目の前のビーチで遊んで疲れたら、シャワーを浴びてホテルの部屋にすぐに戻ることが出来る。
部屋は全室オーシャンビューで、只今改装を順次行っているところ。
部屋は、かなりゆったりした作りで、日本のホテルにしてはかなり広め。ベッドは少し残念だけど、眼下に広がる150度くらいまで見渡せる空と海の海岸線が見渡せる絶景は、何よりも贅沢だと思う。大浴場からも、ただただ海だけが見える。
東伊豆で、何が一番良いかというと、実は、海から登る朝日が見えること。
今の日の出時間は、4時半くらいなのだけど、眠い目をこすりながらでも起きる価値があると思う。
暗い青のグラデーションの中に、仄かに暖かなピンクが見えてきて、オレンジが加わり、やがて黄色い光が覗き出す。
やがて、空と海の間から登る朝日は、ゆっくりと、世界に色や形を与え始める。
下田に来たら、特別な観光はしなくてもいい。ずっと海のそばでのんびりしているのがいい。
波の音を聞きながら、海で遊ぶ家族やカップルなんかを見ているだけで、なんとも言えない幸福感を感じることが出来る。

愛しの下田へ。

外浦海水浴場

九十浜海水浴場

週末は、梅雨のつかの間の晴れ間になるそうです。
「・・・・・・伊豆に行きたい」
そう思って、すぐにホテルとレンタカーを押さえた。朝6時半に起きて、7時半頃の電車に乗ると、10時半には伊豆急下田に着くことが出来る。
「伊豆に来ようと思ったら、実はすぐに来れるのだ。
来られなかったのは、自分の中にある勝手な心理的な距離感に他ならない」
外浦海岸でのんびりと海を眺めて、とっておきの九十浜海水浴場へ。
九十浜海水浴場は、山の上の駐車場から、不安になるくらいの坂道を下っていく。入江になった海は、波が穏やかで、小さな砂浜に岩場があって、蟹が顔を出している。
子どもの時から、夏といえばほとんど週末のたびに伊豆に来ていた。
熱海、来宮、南伊東、下田…。
蟹と戯れる小さな男の子とお父さんお母さんを見ながら、久しぶりに父と母と兄と来た、伊豆の懐かしい海のことを思い出した。
それはまだ、僕が小さく、父と母が一緒に暮らしていた頃。
今思えばその頃は、両親の愛情を、太陽の光のごとく一身に浴びていたのだ。