ふたりで暮らすこと。4

はじめて僕が大分でKに会って、Kの車でドライブした時に、車の中でかかっていたのは浜崎あゆみだった。
僕は浜崎あゆみをはじめて聞きながら、これから先、僕がKとつきあってゆくことになったら、いつも浜崎あゆみを聞かされることになるのかな…と不安に思ったのを覚えている。
僕は、今はほとんど洋楽しか聞かない。洋楽といっても、テイラースィフトもガガもアデルも聞かないのだけど、邦楽は、ほんの少し持っていたものも、先日の引っ越しですべて売り払ってしまった。
Kは東京に来てから、そんな僕の暮らしを壊さないようにと思ったのか、何も自分の主張をすることなく、僕の音楽だけを一緒に聞いていた。
それはたとえば、ウディ・アレンの映画音楽だったり、シナトラだったり、ニーナシモンだったり、ボサノバだったりしたのだけど、考えてみたらKの好きな音楽は、何もそこには含まれていなかったのだ・・・。
先日家に帰ると、ソファの上にCDが置いてあった。僕がいない時にKが聴いているのだろう。それは誰かが焼いてくれたCDのようで、『加藤ミリヤ』と書いてあった。
Kは、この週末に名古屋で行われる加藤ミリヤのコンンサートに大分の女友達と一緒に行くことになっていて、そのコンサートに向けて新譜を聞きながら準備をしていたのだ。
僕は、Kとご飯を作りながら、そのCDをかけてみた。僕にとっては不思議な音楽に感じたのだけど、Kは、僕がどう思っているのか、僕の表情をじっと覗き込んでいた。
夜、シャワーから上がったら、遠くで変な歌を口ずさんでいるのが聞こえた。
それは、音がどこか外れているようでいて、ところどころ盛り上がって大きくなったり、言葉が曖昧になったり・・・。
変な歌声だなあ・・・と思いながら寝室に行くと、ベッドの上でKが、ヘッドホンをはめたまま、スマホを見ながら歌を唄っていたのだった。
僕は大笑いして、「何唄ってるの?」と聞くと、Kは笑いながらとても大きな声で、「加藤ミリヤ」と答えた。
僕たちは、そんなKの歌を聴きながらふたりで笑った。
音程のずれたところどころ大きくなった変な歌を聞きながら何回も笑ったのだ。
誰かと一緒に暮らすということは、今まで自分が聞こうとも思わなかった音楽を聞くことでもある。
でもそれは、そんなに悪いことではなかった。

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