有次の玉子焼き器。

京都の錦小路に、和食の料理人なら絶対に知っている『有次』はある。
僕はこの店が大好きで、なにも買わずとも毎回京都に行くと立ち寄るのを楽しみにしている。市場に面した店内は狭く、無駄を削ぎ落とした美しい包丁や、型抜き、銅の鍋なんかが整然と並んでいて、和食に興味のある外国人なんかも日本の調理用具を手に入れるために押しかけるようなお店だ。
東京で有次の道具を手に入れようとすると、日本橋の高島屋に行けば手に入るのだけど、やはり京都の錦小路で買うと胸が高鳴るのだ。
写真は、有次の玉子焼き器。銅で出来たもので、熱の伝道が素晴らしい。
僕ははじめ、この玉子焼き器を買い求めてから、なかなか使いこなすことができず、途中焦げたようになってしまい、しばらく鉄の玉子焼き器を使っていたのだけど、ふと思い立ち、有次に焦げた玉子焼き器を持って行き修理をお願いした。(銅で出来た道具は一生もので、高価だけどきちんと修理してくれるのだ)
なんでも、使い始めは卵だけでなんども焼き、その後、少しづつ出汁を足して玉子を焼いていく。更に、油は拭き取るだけでよくて、一生洗剤などで洗わずに使えるというのだ。(僕はこの、洗わずに使うというのがなんとも苦手で、結局毎回洗っていたのだった)
数ヶ月ののち戻ってきた玉子焼き器を、僕はまた焦がしてしまうのではないかと思い、使わずにしまっていたのだけど、先日思い立ってこの銅の玉子焼き器で出汁巻き卵を作ってみた。すると、前に手間取って焦げつかせていたのが嘘のように、綺麗な黄色に出汁巻き卵が出来上がったのだった。
そして、言いつけも聞かずその玉子焼き器をまた洗剤で洗い、また取り出して出汁巻き玉子を作ってみた。それが驚いたことに、一切くっつかずまたしても綺麗に出汁巻き玉子が出来たのだった。
料理人が認める道具には、きっと理由があるのだろう。ここの包丁も、驚くほど高価なのだけど、トマトを置いたまま手を添えずに真横にスライスできる映像を見ると、流石だと唸らずにはいられない。
一度は焦がして、ほったらかしにしていたこの玉子焼き器と、僕はこの先も一生、一緒に暮らしてゆくのだと思う。

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