小松弥助

昨夜、金沢在住の友人からLINEが入った。
「 御存知かもしれませぬが
小松弥助さん
御店を閉められるみたいです。」
金沢にある『小松弥助』は、僕が日本の中でも最も好きなお寿司屋さんの一つ。毎年欠かさず11月の香箱蟹の解禁を待って、金沢に旅行するのは、この『小松弥助』に食べに行くのが一つの目的だった。
大将は昨年83歳とおっしゃっていたので、今年は84歳になられているかもしれない。
毎年1月をお休みして健康診断を行い、また一年お寿司を握れるか、お医者さんと相談しているとおっしゃっていた。
「ご予約してくださるお客さんに、ご迷惑はかけられませんから」
そんな大将が、この11月いっぱいでお店を閉めると決めたのには、きっと大将なりの理由があるに違いない。
『小松弥助』は、寿司業界には知れ渡った名店でありながら、店内に入るとわかるのだが、有名店にありがちな怖い雰囲気は微塵も感じられない。
そこにあるのは、ハンサムな大将の溢れる笑顔だ。
大将は、ひとりひとりのお客さんに挨拶をして、美味しいお寿司を最高のタイミングで手渡そうとする。
ここのお寿司が素晴らしいところは、イカの丁寧な切り方や、それとは反対の、ネギトロの豪快な切り方などに現れていると思う。
素晴らしい素材を、そらに美味しくするために、丁寧で計算された下ごしらえがされているのだ。
あのお寿司が、もう食べられなくなってしまうのかと思うと、急に夜中に大将の握るお寿司が食べたくなってしまった。
我々人間は、残念ながら永遠に生き続けることはできないのだ。
レストランであれ、コンサートであれ、行きたいところや催しものがあったら、行ける時に、ちょっと無理をしてでも行っておいた方がいい。
そこで味わった体験は、そのあとも折に触れ、人生を豊かに感じさせてくれるに違いない。

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