大阪からHが来た。

久しぶりに家に早めに帰って、シェリー酒を飲みながらひとりで『茹で豚』をのんびりと作っていたところ、HからLINEが入った。
「突然ですが、いま東京です」
Hはたびたび東京に出張で来ているのだけど、事前に僕に連絡をすることはまずない。いつもこんな風に突然、それも夕方や夜になって「今から会えないか?」と言ってくるのだ。
「あと30分くらいしたら出られるので、伊勢丹で待っててください
(茹で豚を茹でるのにもう10分、味をしみ込ませるのに10分かかるから)」
その昔、8年間くらい東京に住んでいたHは、今は実家のある大阪で暮らしている。僕より5つ年上で、ものすごいクローゼット。いつも自分がゲイであることに罪悪感さえ感じていた。それでもそんなHを、僕は好きになってしまったのだった。その恋は完全には叶わぬまま、Hに恋人がいたことと、大阪にHが戻ってしまったことでゆっくりと冷めていったのだった。
『神場』でワインを飲みながら、仕事のこと、家族のことなんかの話を聞く。そしていつものように、ゲイライフの話へ。
H「今はもう、大阪で映画に行くことさえできないんだ・・・大阪は東京と違って、映画館で誰に会うかわからないから、男同士で映画を観ているところを見られたら、絶対バレちゃうと思うんだ」
H「今はもう、飲みにも行かないよ。堂山はノンケの店もあるから、堂山なんかで会社の人に蜂会わせたら、それだけでホモだってバレちゃうからね・・・」
僕「そんなにいつも人の目を気にしていて生きるなんて、本当につらいだろうね・・・」
H「会社でもすぐにプライベートの話で突っ込んでくる人がいるから、どうかこちらに話が向かないようにとずっと思ってるんだ・・・」
僕「でも、会社やめたら、その人たちとはもう会わないんでしょ?そんな人たちのことをなんで気にするの?もっと楽に生きられないの?僕が一緒に行って、横でレインボーフラッグでも振ろうか?」
H「僕には、ただしみたいな生き方は無理だよ。できないよ」
もしかしたら、日本中のほとんどのゲイたちは、Hのように毎日息を殺して生きているのかもしれない。自分がゲイであることを隠しながら、決して気づかれることのないように・・・。
そんな生き方を思うとき、僕たちゲイは、なんでそんな風に息を殺しながら生きなければならないのだろう・・・と思う。
そんな風に四方八方に気を張り巡らせながら生きることで、僕たちはいつか幸せな人生を送ることができるのだろうか・・・?
恋人と一緒に映画にも行けないし、町も一緒に歩けない生活なんて、今の僕には想像できない。Hがいいとか悪いとかではなくて、そうせざるをえない状況が、今の日本の社会なのだと思う。
そして、そんな馬鹿げた状況を、僕たちは時間をかけてでも、なんとかして変えていかなければならないと思うのだ。
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