昔、好きだった人。

昨夜遅く飲んでいたらLINEが入った。
「今、銀座にいるんだけど、日帰り出張のつもりが帰れなくなり、おまけに東京のホテル、年度末のせいかどこも空いてないんだ…」
それは僕が大学生の頃、燃えるような恋をして、ちょっとつきあいかけたHさんだった。今は大阪に帰っていて、時々東京には出張で来ているのだ。その後、外苑前駅で待ち合わせ、そのまま弟的存在Fのやっている『BAR緑』に。
Hさんは、誰よりもホモフォビアが強く、昔は、「ゲイである自分は一生幸せにはなれない」「いつかは女性と結婚する」などと、呪文のように僕に繰り返していた。
僕はそんな言葉を聞くたびに、「僕と一緒に幸せになろう」「本当の自分を隠して女性と結婚して生きるなんて、その女性のことも幸せには出来ないと思う」などと答えていた。
Hさんは結局、その後も女性とは結婚はせず、一人の人とつきあいを続けていたのだけど、いつ会っても相変わらず根強いホモフォビアに、僕もなんとかならないかな…と思っていた。
そんな思いを感づいたのか、Fは、自分がFtMであることや、それゆえに苦労して来たこと。手術をして胸を取ったこと。彼女とのことなど、隠すことなく話し続けてくれた。
恐らく、HさんはFtMなどと言う言葉も、トランスジェンダーなどと言う言葉も始めて聞いたのだろう。呆気に取られてFの話に聞き入っていた。
店を出てHさんは、「彼は凄いね。そのまんまだね。まるでパワースポットみたい…」とつぶやいた。
昔、燃えるような恋をして、あれほどセックスしたいと思っていたのに、20年ほど経った今は、Hさんのことをまるで親戚のおじさんを見ているような目で見ている自分がいるのも不思議だった。
時の流れと、僕たちの愛情なのか友情なのかわからない関係を、愛おしく感じた夜だった。
カテゴリーgay

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です