世界中のすべての愛し合う人たちに。

飲みに行ったら、5年前に別れたMに遭った。
店に入ってしまったので、すぐに帰るわけにもいかず、
しばらく狭い空間で息を殺していた。
Mとは、10年間ともに生きた。
Mのことを、心の底から愛していたし、愛されていた。
あんな10年間は、もう僕には訪れることはないのかもしれない。
今までの僕の人生で一番つらかった出来事は、
Mが事故に遭い、顔面を損傷した時だ。
朝方、Mがミイラのように顔中に包帯を巻いて警察から帰って来た時は、
嗚咽のように泣く彼を抱きながら、世界が終わってしまったと思った。
大学病院に連れて行き、長い間待たされて、やっと先生に会えたら、
顔以外には、身体が動かないなどの問題はないし、
ベッドも空きが無いので入院はさせられないと言われた。
僕は、「顔がミイラのようになっているのに、
コンビニにも行けないし、今は精神的にも落ち込んでいて、
普通の暮らしはとても出来ないと思うのです。
車椅子に乗ったまま意気消沈している彼を、
なんとか入院させてもらうことは出来ませんか?」と頼み込んだ。
その時、女医さんは、不機嫌そうな顔をして僕に言った。
「貴方は、患者さんと、そもそもどういうご関係なのですか?
親族でもない方に、そんなことを言われても・・・」
結局その病院は諦めて、友人のお医者さんに頼み込んで、
一時的に入院させることは出来たのだけど、あの時に思った。
『自分の一番大切な人が事故に遭っても、
僕には病院で彼のそばに立ち会ったり、治療をどうするかなどと
先生と話すことや決めたりすることも出来ないのだ』
フランスで同性婚と養子を持つことを認める法案が下院で可決された。
根強い反対意見はあるものの、このままいけば世界で14カ国目の
同姓婚を受け入れる国になるという。
保守的な日本は、同性婚を認めるまでに、
恐らくかなり長い時間がかかるだろう。
世界中のすべての愛し合う人たちが、
法の下で、平等の権利を持つことが出来る日を願うばかりだ。
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